威光に陰りも見えてきた黒田東彦(はるひこ)日銀総裁の「異次元緩和」である。デフレ脱却に向け、旗を振り始めて3年。当初の「2年で2%の物価上昇」どころか、あと2年、総裁任期中の目標達成も困難ではないか、との見方が市場に広がっている

 緒戦の勢いは目覚ましかった。世の中に出回るお金の量を2倍にする。「異次元」に呼応するように、円安が進み、株価は上がった

 しかし、思惑通りに事は運ばない。最大の誤算は原油価格だろう。1バレルで100ドルを超えていたのが、一時は20ドル台まで急落したのである。消費者物価上昇率も、2014年4月の前年同月比1・5%をピークに、最近は0%近辺と低迷している

 異例のマイナス金利が、どこまで効果を発揮するか。銀行の経営悪化など副作用も懸念される。はっきりしてきたのは、金融政策だけでデフレを克服するのは難しいということである

 不思議なことがある。モノやサービスの価格は、需要と供給に左右されるはずだが、保育士や介護士、人手不足がいわれる仕事の給与の伸びもいまひとつ

 官製春闘での賃上げも景気を浮揚するほどの勢いはない。格差は広がるばかり。あふれているはずのお金はどこへ向かったか、と嘆きたくもなる。規制緩和や新産業の創出…。黒田総裁のもう一つの誤算は、政府の動きの鈍さだろう。