真空を1秒間に2億9979万2458メートル進む。宇宙で最も速い、その光でさえ逃れられない。何もかものみ込むブラックホールの重力は果てしなく強い

 ブラックホールは銀河の中心などに存在する質量の極めて大きな天体だ。物理学者アインシュタインの一般相対性理論に基づいて存在が予言され、確かにありそうだ、ということは了解済み。だが、誰も目にしたことはなかった。光すら吸い込まれるため、直接見ることはかなわなかったのである

 そのブラックホールの輪郭の撮影に、日本も参加する国際チームが初めて成功した。地球から5500万光年離れた、おとめ座のM87銀河の中心、高温のガスやちりが放つ直径1千億キロの光の輪の中で、その影はぽっかり口を開けていた

 光の輪はブラックホールの奈落に沈むガスやちりの断末魔。宇宙の歴史も吸い込んで、これほど壮大な闇もない。彼我を分ける境界は「事象の地平線」と、文学的な名称がついている

 M87のそれは、地球から見ると、月に置いたテニスボールほどの大きさだという。世界6カ所の電波望遠鏡をつなぎ、たとえれば地球の直径ほどの望遠鏡にして、ようやく観測できた

 宇宙規模の話になると思う。人間の営みの、なんと小さなこと。でも、だからこそ挑戦や努力が美しい、私たちが暮らす光の世界である。