仲間の消防団員7、8人と最前線にいた。もう間に合わない。民家の2階へ、寝たきりのお年寄りを担ぎ上げた。窓の外、津波が堤防からあふれるのが見えた。「不思議なんだけど、まだ大丈夫と思った」。家もろとも濁流にのまれた

 岩手県大槌町の岩崎伸行さん(38)は、町の消防団幹部。東日本大震災の発生当日、住民の避難誘導をしていた。あの場で生き残ったのは、あと1人。町内で合わせて16人の団員、14人の婦人消防協力隊員が亡くなった。町長と町職員40人も

 まず、わが身の安全を確保する。岩崎さんが得た教訓である。それでも、と続ける。「助けが必要な人を放っておけるだろうか」。拭い去ることのできない葛藤がある

 自宅も会社も流された。あれから-。「あっと言う間、言葉にできない5年だった」。続く仮設暮らし。かさ上げ工事のつち音が響く町同様、生活の復興も、いまだ途上である

 消防団ではラッパ隊長も務める。訓練や儀礼に欠かせないラッパまで、津波はさらった。今、手にするのは窮状を知った全国の消防団員の支援でそろえた新品だ。うち2本は徳島県内の消防分団から

 あまりにささやかなので、と分団は名を出すのを拒んだが、「ありがたかったあ」と岩崎さん。ささやかでも確かな友情が被災地の力になっている。大震災から5年と1カ月。