熊本県南阿蘇村。阿蘇の山中の田園にすっくと立つ桜がある。高さ14メートル、幹回りは7メートルほど、四方に20メートル余りも枝を伸ばし「一心行の大桜」と呼ばれる。時季に訪ねれば、周囲の緑にも引き立てられ、薄紅の花がまぶしい

戦国時代の1580年、当地は薩摩・島津氏の侵攻を受けた。桜は、迎え撃った武将・中村惟冬の墓のそばに植えられたとされる。その名は、一心に菩提を弔う妻子と家臣の姿からついたそうだ

よわい400年を優に超す。噴火に豪雨、幾たびも災害を見てきたのだろう。今回のような事態も経験していたかもしれない

しかし、よわいせいぜい100年の人間とあれば…。震度7の大地震が前触れにすぎず、やがて本震が来ると想像できた人は、それほど多くはあるまい。「はずがない」を出し抜くのが、大災害のいつものやり口だとしても

余震の続く被災地。時間とともに増える犠牲者。不明、孤立、一心に救いを待つ人たちがいる。慎重に、それでも一刻も早く。降り出した雨が恨めしい

ありがたいことに、筆者の友人からは無事の連絡があった。ただ、熊本市内の実家は倒壊の恐れがあり、母親を隣県に避難させたという。「広範囲に、ほとんど全ての人が何らかの被害を受けています。どうか支援を」。義援金やボランティア。私たちにもできることがある。