しょせん明日には忘れられる新聞コラムで、歳月を経て輝きを失わない文章を残した人がいる。深代惇郎さん。46歳で急逝し40年になる。これも時代かな、と考えさせられる1本が作品集にあった

落語家の三遊亭円窓が石川五右衛門の辞世「石川や浜の真砂(まさご)はつきるとも世に盗人の種はつきまじ」の下の句を「われ泣きぬれて蟹(かに)とたわむる」と入れ替えて、視聴者をくすぐったという。さらに話は続き-

<テレビ局に電話があって「下の句は石川啄木の有名な作です。間違ったことをいうから、お客に笑われるのです」と、まじめな声でしかられたそうだ>(「深代惇郎の天声人語」朝日文庫)

円窓のくすぐりと後日談のおかしみに、今ならどれぐらいの人がついて行かれようか。五右衛門に啄木。以前は教養の程度が高かった、か。そういうことでもなさそうな気がする。知っておくべき常識の種類が変わったのだろう

熊本地震に便乗し、ツイッターで「動物園からライオンが逃げた」「井戸に毒が」と、悪質なデマを流す者がいる。教養よりも、心の劣化が気になるが、それもいらぬ心配かもしれない。いつの時代にも不心得者はいるものだ

ただ、人助けに使える道具で、悪意を拡散させる現代である。深代さんなら、時代の病巣を鮮やかに切り取って見せたろう。じっと手を見る。