戦後70年を迎えた昨年、「これまで」を語る企画や特集が相次いだ。戦争は遠い記憶ではない。起伏に富んだ戦後70年の歳月には語り尽くせないほどの重さがあった

本紙朝刊連載の「転換期を語る」の締めくくりで作家加賀乙彦さんは、憲法の公布と施行を<画期的な出来事>(昨年12月28日付)と述べた。戦後間もない混迷の時代、18歳のころだった

後に精神科医となり、死刑囚の姿を通して信仰と救済を問う「宣告」などを書いてきた加賀さん。憲法が<日本人の心の底に隠れていた自由への希望、人権への希望、そういったもの>をうまく誘い出したのではないか、とも語っている

安倍晋三首相は憲法改正に意欲的な発言を繰り返している。共同通信社の全国電話世論調査によると、首相の下での改憲には「反対」との答えが56%に上った。急ぎ足は禁物、前のめりな姿勢への警鐘だろう

戦後の希望であり、よりどころとなってきたのが憲法だ。それを変えるよりも、災害の復旧や東京一極集中の是正、いじめや子どもの虐待、貧困問題など、もっと足元に目を向けたい

憲法公布から70年を迎える今年は「これまで」を振り返り、「これから」を問い直す分岐点となる。加賀さんが<格式が高く立派な日本語ですよ>という憲法。黄金週間の最中、その施行日の朝に思いを巡らす。