若くして才能は際立っていたのだろう。スイス生まれの芸術家ジャンヌレは、18歳で初めて住宅設計の注文を受けている
第1次大戦後、パリへ移って新しい芸術運動に身を投じ、先祖の名字からとったペンネームを使うようになった。近代建築の三大巨匠の一人となるル・コルビュジエである
東京・上野公園の国立西洋美術館は、日本にある唯一の作品だ。フランスやインドの16施設とともに、世界文化遺産に登録される見通しとなった。彼が、東京に足跡を残したのには理由がある
およそ3千万円というから、今なら1千億円は優に超す。戦時の船舶需要で財をなした実業家、松方幸次郎が戦間期、欧州で美術品収集に要した費用である。「松方コレクション」と呼ぶ。パリにあった作品群は第2次大戦後、敵国財産として接収された
返還を求めた日本に、フランスは「ならば展示にふさわしい施設を造れ」。そこで、世界の建築界を先導していたコルビュジエに、日本が白羽の矢を立てたというわけである。戦後復興も途上。資金難に苦しみながら1959年、美術館を完成させ、コレクションを引き取った
モネの「睡蓮(すいれん)」、ミレーの「春」、ルノワールやゴッホ、ゴーギャン、ロダン。世界遺産。戦争や経済危機に翻弄(ほんろう)されてきた絵画や彫刻たちも、安住の地として誇らしかろう。