かつて「阿波の大風呂敷」と言われた政治家がいた。上板町出身の中川虎之助衆院議員。1914年に鳴門海峡に超大橋を架けよと帝国議会に建議し、そうやゆされたそうだ。それから71年後、橋は架かる
大風呂敷は文字通り大きな風呂敷だが、「-を広げる」をくっつけると、実際にできそうにないことを言ったり、計画したりすることの意味に。中川衆院議員にふさわしい言葉は大言壮語ではなく、気宇壮大だろう
さて、「1億総活躍プラン」が打ち出されたが、大風呂敷がまとわりつく。非正規労働者と正社員の賃金格差の縮小、働き過ぎの是正、保育や介護現場の賃上げ。その目標に異論はないが、問題は実現までの道がつくかどうかだ
理想に現実を近付けていくのが政治の役割だが、2021年度末までに名目国内総生産(GDP)600兆円、25年度末までに希望出生率1・8の達成など、希望的観測のようなこの数字は、うのみにできない
社会に出たくても出られない、働きたくても働けない人に光を当てているのか。「総活躍」という言葉に違和感を抱く人の思いを、すくい取っているのだろうか。心を動かしてほしい
「1億」から、こぼれ落ちた人に寄り添う。大風呂敷は、小さな思い、弱々しい声を包み込むものでなければならない。それこそが政治の役割だろう。