頭脳ばかりが肥大化し、手足や胴体は細るばかり。頭脳は東京、手足や胴体が地方。この極めて不健康な状態を少しでも健康にしていきたい

ベストセラー「バカの壁」で知られる解剖学者の養老孟司さんは5年前の本紙朝刊でこう述べた。<私は「脳化」した都会を離れて2、3カ月、田舎で体を動かし、リフレッシュすることを提唱しています>

早くから現代版の「参勤交代」の必要性を説いてきた養老さん。今ごろの季節に四国の山を歩いたのだろう。吉野川や四万十川上流の木の種類の多さ、一斉に芽吹く様子を見て、新緑には<すべてがこれからだという希望がある>と書いている

養老さんの持論は知らなくても、「脳化」した都会を離れる若者は増えてきた。上勝、神山、美波、三好などで、自分の居場所と役割を見いだした人たちの姿を見掛ける。地方創生が声高に唱えられる前から、既に気付きは起きていた

中央省庁の移転を巡って官僚側の抵抗は強い。養老さんの話に耳をふさぎ、移住者の姿に目を閉じたままでは、東京一極集中は変わるまい

「徳島で、できるはずがない」。そういう厚い壁を作っているのは人である。養老さんは、こう結んでいる。<自分の感受性に気付かないまま過ごす人生が、豊かで健康であるはずがありません>と。壁は打ち破るためにある。