後漢の高官を務めた楊震(ようしん)に、こんな逸話がある。真夜中、訪ねてきたのは旧知の県知事。世話になったから、誰も知らないから、どうしても受け取ってもらいたい、とお金を携えて
「誰も知らないだって? 『天知る、地知る、我知る、子(し)知る』だよ。天も地も、私もあなたも、知っているじゃないか。いつかは漏れるよ」。申し出をはねつけた
現金授受問題で告発されていた甘利明前経済再生担当相と元秘書2人が不起訴処分となった。十分な証拠がなかったという
現金を渡した建設会社の元担当者は「都市再生機構との補償交渉を有利に進めるため、口利きしてもらった謝礼や経費だった」と、取材に答えた。金銭のやりとりがあったことは、甘利さんも認めている。録音や写真もある。これでなお証拠が足りないとは、誰が納得できるだろう
あっせん利得処罰法、悪評にたがわないザル法である。処罰の対象となる「権限に基づく影響力の行使」の範囲は曖昧で、今回、抜け道を示した恐れがある。「おかしいというのは分かるが、法律がそうなっていない」と検察幹部は悔しがる
法的には免れても道義的な責任は残る。病気療養を理由に国会を欠席し、閣僚辞任時に約束した説明の機会も、いまだに設けていない。甘利さんほどの大物なら、我知る人の責務をご承知のはずだ。