小僧がいたらしい。夜更け、寺の庭で、長いさおを夜空に突き上げて盛んに振っている。不審がる住職に小僧が答えた。「空の星がほしいのだけど、たたき落とせんのです」。そこで住職。「鈍いやつじゃのう。屋根に上がらんかい」

 400年ほど前の笑話集「醒睡笑(せいすいしょう)」にある。五十歩百歩。屋根に上がったところで、届くはずがない。語り手があきれて言うことには「師匠の教えは、ありがたいねえ」

 添えられた狂歌で、この小話の季節が分かる。<星ひとつ見つけたる夜のうれしさは月にもまさる五月雨のそら>。陰暦五月の長雨。梅雨である。年が変わって、はや半年。今年もそんな時季になった

 美波町の大浜海岸も、アカウミガメの産卵シーズンに入った。昨年より1カ月遅いというが、昨年が記録上、最も早かっただけに、大幅な遅刻ともいえないのだろう。時計にせかれるわれらより、自然はもっと大きなサイクルで回っている

 さて、小僧。そもそも、なぜ星に執着したか。近世文学研究家の宮尾與(よし)男(お)さんによると、長雨の時季、星を見つけると福があるとされていた。久方ぶり、雲間にのぞいた星に、はしゃがずにいられなかったのかもしれない

 雲の多い、すっきりしない日が続きそうだ。そんなときでも、星ひとつ、花一輪、心に楽しむ余裕を持ちたい。小僧のように。