職人に建設労働者、農民に船員。新興国の、躍動する市井の人々の姿を、詩人のホイットマンが一編の作品に焼き付けている。<アメリカの歌声が聞こえる、さまざまな喜びの歌が聞こえる>(亀井俊介訳)

 それから150年余りがたった。民主党候補指名を確実にし、初の女性大統領を目指すクリントン前国務長官には今、どんな歌が聞こえているだろうか。広がる格差、排外主義、政治不信。人々の怒りの歌が、どれほど耳に届いているだろう

 「女性の地位向上へ、まだまだ壊さなければならないガラスの天井(見えない障壁)がある。私たちは歴史の新しい章を書いている」。勝利演説は力強かったが、さすがに鮮度が足りない

 大統領夫人、上院議員、国務長官と、この20年、表舞台に立ち続けた「エスタブリッシュメント」。支配層の一人との印象は拭えず、変革を求める若者が選んだ伏兵サンダース上院議員に苦戦したのも道理だ

 社会に深い亀裂が走っている。共和党候補となるトランプ氏も、その隙間から頭をもたげてきた。まれにみる不人気の大統領候補2人。人々の怒りの歌にどう応えていくか

 ホイットマンが詩「アメリカの歌声が聞こえる」を発表した翌年の1861年、南北戦争が始まった。かつての米国は、血みどろの対立を乗り越えて超大国へと飛躍したが…。