失礼な言い草だが、妙に説得力があった。ある政治家の、こんなコメントである。「ロンドンのビジネスエリートは英国を代表しない。庶民は頭(理屈)でなく腹(感情)で判断する」

欧州連合(EU)を巡る英国の国民投票で離脱派が勝利し、世界に激震が走った。残留の利点を説けば理解が得られる、とのキャメロン首相の当ては外れた。言葉が腹に響かなかった。そんな結果といえる

人口6500万人。うち東欧などEU諸国からの移民が既に5%を占める。2004年に加盟したポーランドの出身者だけで、14年までの10年間に70万人増えた

好調な英経済の底辺を支えているのが、建設現場やレストランで人の嫌う仕事を引き受けている移民だといわれる。これには目を向けず、「雇用を奪い、福祉を圧迫している」と離脱派は批判する。急激な変動を包み込むほど、社会には柔軟性がない。紳士の国だけの話でもないのだろう

移民を目の敵にし「壁を築かねば」といった考えが勢いづいている。極右政党が支持を伸ばす欧州ばかりか、大統領選最中の米国でも、排外主義を公言する実業家が人気だ

独立という名の孤立で、将来が確かになるとは思えない。首相の辞意表明で混乱はさらに深まろう。国の南北、若者と50代以上で分裂した英国世論を包む、腹に響く言葉はあるか。