雨煙る高原に、一筋の道が続いている。傍らの斜面にはアジサイ、見渡す限り。青い球形の花がそこかしこ、近くは色濃く、視線を先にやれば、花は雲粒に紛れて色を失い、白いとばりの中へと消えていく。紫陽花(あじさい)、手鞠花(てまりばな)。雨の日の風情は格別だ

 佐那河内村産業観光課によると、大川原高原には5ヘクタールの園内に約3万株が植わっている。標高900~950メートル。だから花期は下界よりも遅い。今は三分咲き程度で、見頃は来月上旬から。そのころには、赤や白の花も楽しめるそうだ

 低く聞こえてくるのは、風力発電施設の音か。茶色い野ウサギが目前を横切り、緑の葉の間に飛び込んだ。村の事業で植えてから40年がたつ。近年、野生動物による食害が増えてきたという

 「それに、抜いたり、折ったりする人がいるんです。人害ですね」。職員は嘆いていた。持ち帰るのは思い出だけに。花見る人の最低限のマナーだろう

 アジサイ。たどれば日本原産のガクアジサイに行き着く。江戸時代に欧州へ渡り、品種改良され、セイヨウアジサイ、ハイドランジアとなって戻ってきた。Uターン組である。過疎の徳島、人もこうあれば

 高原から神山町へと下りる。林間、落石がちの道にシカがいた。その胃袋に、アジサイが収まっていたかどうか。<あぢさゐのどの花となく雫(しずく)かな>岩井英雅。