呼吸は、吐く息の「呼」と吸う息の「吸」から成る。息を吸って、吐いてというと「吸呼」となってしまう。作家五木寛之さんは、気功家望月勇さんとの対談「気の発見」(平凡社)で述べている
「いのち」は、日本の古い言葉では、「いきのみち」と書いたとの説がある。五木さんは<「息の道」が縮まって、「いのち」になったのだという説。だから、息をする、呼吸するということは、人間が生きているということとおなじ意味>と話している
半世紀前のこと。旧美郷村の中枝小学校で、児童が暗幕にくるんだシャーレの中のホタルを見て、こう言った。「光るってことは息していることかな」。ゲンジボタルの卵がぼーっと光っている。かよわい光は命そのもの
美郷の村名は「美しい故郷を忘れるな」との思いを込めて付けられたという。その地で織り成された原田一美先生と子どもたちの物語が「ホタルの歌」である
ホタルと聞けば美郷、原田さんと教え子たちのやりとりが思い浮かぶ。光るっていうことは「親ボタルに知らせてるんとちがうか」「生きているんだなあ」…
明滅するホタルに、子どもたちが見るのは、昔も今も「息の道」「いのち」だろう。呼吸が浅くなる、荒くなる話ばかりを耳にする今、3月に逝った原田さんの著書で、改めてホタルの呼吸に触れたい。