三好市山城町に残る伝承の掘り起こしを続ける下岡昭一さんの持論は「お年寄り1人の話は図書館1館に値する」。祖父母から、そのまた祖父母からという具合につながってきた地域の記憶である

 そんな昔話を電子書籍化する伊藤忠記念財団の取り組みに、山城町の妖怪タヌキ「青木藤太郎(とうたろう)」が加わる。伝承は荒唐無稽なものではない。後世に伝えたい教えがあり、想像の翼を広げる豊かさがある

 語り継がれる伝承に関心を抱く企業が増えてきたという。下岡さんの言を借りれば「地方の文化は遅れたものではなく、これから必要な文化」という証しである

 祖父母から父母へのように、伝承していくには語り部がいる。語り部よ出(い)でよ。徳島経済研究所はそう願い、文化と経済の視点から「徳島が好きになる本」を編んだ

 すれ違う全ての人と知り合いにはなれないが、縁ある人に教えたい、徳島のこと。1889年に市制を敷いた徳島市は全国10位の都市だった、2040年には阿南、鳴門、小松島、松茂、北島の人口に相当する人がいなくなる? お裾分けこそが観光振興の重要な視点…。記録や記憶に息を吹き込み、共に解決しなければならない課題も明示した。格好の解説書である

 消費者庁の徳島移転に向けた試験業務が始まった。一人一人が懐深い徳島の語り部になる時である。