20年余りも前のこと。自然農の農家から、量販店では見かけない野菜をもらった。「少し苦いですが、これがないと夏は乗り切れません」。そう言うので、その晩、早速試した

 口に入れたときの驚きといったらない。薬でもかみつぶしたような苦さは想像をはるかに超えていた。調理に抜かりがあったか。栽培方法がおかしいのでは、と疑いもした

 今や珍しくもなくなった沖縄の特産品ゴーヤーである。炒めてチャンプルーに、あるいは酢の物に、天ぷらに。慣れてみれば、苦みもおいしい夏の逸品なのだが、あのころはまだ、一般的な食材ではなかった

 ちょうどそのころ、県西の施設園芸農家から聞いた。「これからの農家は、経済新聞を読まないとやっていけないよ」。感心していたのも今は昔。県産農産物が海を越えて勝負する時代になった

 美馬市の生産者が今冬、ハッサクの輸出に乗り出す。全国でも例のない試みだそうだ。相手は味にうるさいフランス。むくのに手間な皮の厚さも、ために傷がつきにくく、欧州連合(EU)までの長旅、かえって長所になるという

 もとより酸味や香りの強いかんきつ類を好む地域。ゴーヤーが沖縄県外でも普通の食材になったのを思えば…。枯れ葉舞うパリ、モンマルトル。アパルトマンの一室、テーブルの上には黄色い果実。すてきだ。