かつてこう書いている。<ゴーリキー流に言うならば、僕は楽園にいた>(「それでも僕は前を向く」集英社新書)。タレントで元参院議員の大橋巨泉さんが亡くなった
 
 テレビの草創期を知る人である。暗中模索、もがきながらも、<何か確実に前進しているぞという実感があった>。面白くて、楽しくて。そんな日々を重ねる中、「11PM」「ゲバゲバ90分!」といった、今や伝説となった番組は生まれた
 
 一から始め、映画からもぎ取った娯楽の王様の地位も、21世紀に入り、多くをインターネットに奪われた。こう語ったことがある。「テレビの未来は暗い」
 
 戦時中は小学生。皇国少年だった。千葉の疎開先では米軍機の機銃掃射を受けた。昭和20年8月15日。”巨泉流“の原点はここにある
 
 未来が暗いのはテレビだけか。平和と民主主義。昭和の良質な部分も危うくなっていないか。がんと闘っていた晩年、政権批判を強めた。「週刊現代」に掲載した最後のコラムにあった。<このままでは死んでも死にきれない>
 
 「仕事が楽しみなら、人生は極楽だ!」とは、ロシアの文豪ゴーリキー「どん底」の一文である。今ごろ、先を行く永六輔さんに追いついて、「僕たち極楽を生きてきたね」と笑い合っているか。ただ、二言目に出てきたのは、この国の将来を憂う言葉に違いない。