その魚とは、古くからの付き合いである。万葉集にもある。<石麻呂に吾物申す夏痩に良しといふ物ぞ鰻漁り食せ>。石麻呂さん、いくら飲んでも食べても、肉付きはみすぼらしかったらしい。それをからかって、万葉歌人の代表選手・大伴家持が詠んだ

わざわざ意見するぐらいだから、ウナギは日常的な食材ではなかったのかもしれない。精を付ける「薬食い」に近かったのだろう。それにしても、どう調理したか。輪切りなんて出てきたら、かえって夏痩せが進みそう

蒲焼きの文字は、もっと早くから見られるというが、開いて焼くスタイルが定着するのは、江戸時代のことである。旬が夏とされるようになったのも、この時代に入ってだ

売れ行きが落ちる夏場をどうすれば、と近くの店から相談を受けた讃岐出身の学者・平賀源内が、宣伝文句に「土用丑の日」を思いついたとか、蜀山人が狂歌に織り込んだとか

古くからの付き合いも、いつまで続こうか。ニホンウナギは今や国際的な絶滅危惧種で、ワシントン条約の規制対象に、との声も上がる。耳の痛い話だが、日本人の胃袋が、こうした状況を作り出したのである

もしウナギに心があるのなら、きょう丑の日、大勢の仲間の弔いをするだろう。生きるもの全ての命に感謝し、食卓にのった一切れ、姿勢を正して味わいたい。