妊婦の血液から胎児のダウン症などを調べる新出生前診断の利用が年々拡大している。各地の病院でつくる研究チームのまとめによると、受診したのは検査開始から3年間で3万615人。染色体異常が確定した妊婦のうち、94%に当たる394人が中絶を選択した
「命の選別につながる」との懸念があり、日本医学会が認定した施設で、臨床研究として実施されている検査だ。受診には、出産時35歳以上などの条件がある
中絶が9割を超す。この数字をどう見るか。重い決断が迫られる検査で、カウンセリング体制は十分だったのか、といったことも含めた検証を抜きにはできないが、障害を持つ人たちが生きづらい社会であることも、少なからず反映しているだろう
相模原市の知的障害者施設で、19人が刺殺され26人が負傷した。障害のある40歳の娘と暮らす社会学者の最首悟さんが、取材にこう答えていた。「この子がいて良かったという気持ちと、いなければ良かったという気持ちがくっついていて、離すことができない」
目を覚まされる思いがしたのは、こうした事件のたびに繰り返される、お決まりの論調にいらだち放った一言だ。「分かったようなことを言うな」
「命は大切」。間違いなく正しい。だが、当たり前の言葉で表層をなぞるばかりでは、事の本質に迫れない。