狙った遺伝子を効率的に改変する「ゲノム編集」技術を使って品種改良した農水産物が、今夏にも食品として販売可能になる見通しだ。

 肝心なのは、ゲノム編集された食品を消費者が納得して選べる環境整備である。国は安全性の確保に万全を期さなければならない。

 厚生労働省の専門部会がまとめた規制方針の柱は、外部から遺伝子を追加しないで、元々ある遺伝子を改変しただけの場合は、安全性の審査を求めず、国への届け出で販売を認めるとした点だ。

 遺伝子を改変するだけの手法なら、従来の品種改良や自然界で起きる突然変異と本質的に同じであり、危険性は低いと判断したようだ。

 ゲノム編集技術を使えば、完成まで10年単位の年月を要していた品種改良が、短期間で効率的に実現できる。

 既に、血圧を下げる成分が豊富なトマトのほか、毒素をつくらないジャガイモ、肉付きのいいマダイなど、付加価値のある農水産物の開発が進んでいる。こうした機能性の高い食品は、消費者にとってもメリットがあろう。

 安全性の審査が必要な遺伝子組み換え食品と異なり、緩い規制にとどめることで開発が加速すれば、地域経済の活性化にもつながるはずだ。

 とはいえ、ゲノム編集技術が生物にもたらす長期的な影響は、よく分かっていないのが実情である。

 例えば、一度に多くの遺伝子を改変した場合の影響はどうなのか。ゲノム編集で開発した食品の安全性を判断する際の基準も確立しているわけではない。

 欧米諸国の規制を巡る対応もさまざまだ。欧州連合(EU)では、ゲノム編集された食品も遺伝子組み換え作物として一律に規制すべきだとの司法判断が出ている。

 食の安全・安心を確保するには、長期にわたる科学的な検証と丁寧な説明が欠かせないのは言うまでもない。

 問題なのは国への届け出に法的義務はなく、規制の実効性に疑問符が付くことだ。

 厚労省は今後、企業や開発者が届け出をする際に必要な情報など、制度の詳細ルールを定めることにしている。

 食品の機能性が増したところで、消費者の安心感が得られなければ商品は売れるはずがない。遺伝子の改変により食品の成分はどう変化したのか。健康への影響がない事実を、どのような手続きで確認したのか。厚労省は、そうした疑問に的確に答える透明性の高い仕組みを整えなければならない。

 企業や開発者側も、品種改良のために使った技術やどのような手続きで安全性を確認したのかを、分かりやすく説明する必要がある。

 消費者団体などは、食品のパッケージにゲノム編集の表示を義務付けるよう要望している。消費者庁もこうした声もしっかりと受け止め、国民の理解が得られる表示ルールを策定してもらいたい。