この人はアフリカの奥地にも足跡を残していた。「きょうも涙の日が落ちる」(展望社)にある。書名から分かる人も多かろう。著者はフーテンの寅さんこと渥美清さんである

 1965年公開の「ブワナ・トシの歌」のロケでのこと。言葉にさぞ苦労しただろうと思いきや、<これは簡単でした。早くしろ、がペシペシ、ゆっくりやれ、ポレポレ。それにアフリカにも唐辛子があるんですが、これがピリピリですから、おぼえやすいんです>と記している

 独特のせりふ回しに乗せられるように、つい読んでしまった。寅さんを演じた映画「男はつらいよ」シリーズで、ロケが行われたのは日本全国に及ぶ。行くところに人だかりはできた

 寅さんは、被災地の神戸市長田区も歩いた。阪神大震災で一面、焼け野原になった、その地でも撮影された最終作では、ボランティアとして登場した。肩をたたいて、被災者との再会を喜ぶシーンは忘れられない

 ぶらりと現れ、すっと消えていく寅さん。美馬市脇町などを舞台にした映画「虹をつかむ男」の終幕では、吉野川の土手にその姿がちらりと

 きょうは渥美さんの命日である。亡くなって20年。人垣の一人となった人も、スクリーンで笑い、涙した人も、あの啖呵売(たんかばい)を思い出し、口上をまねるに違いない。記憶の中の、その足跡は消えない。