長崎市の日本二十六聖人記念館でイエズス会関連の資料を見せてもらったことがある。皮の装丁の古い文書を開くと、江戸時代の禁教下、拷問を受ける宣教師や信者の姿が描かれていた

 シュロの木の前で、人が逆さにつるされている。肩から上は地面に掘った穴の中。周りは板でふたがしてあり、表情はうかがえない。穴の底には汚物が入れてあったという。最も恐れられた拷問「逆さ穴づり」の図である

 血が上って死ぬことのないよう、頭部には血抜きの傷が付けられた。苦しみを長引かせるためだ。暗闇で逆さになったまま悪臭に包まれ、耐えきれず、高名な宣教師も信仰を捨てている

 福者ディオゴ結城了雪は信者を助け、この拷問で殉教した。これより前の秀吉の時代、二十六聖人の一人、パウロ三木は、はりつけになりながら「全ての人を許す」と説いた

 魂の高貴さは、徳島ゆかりの二人にいささかも劣らない。露見すれば死が待つ中、禁教令から260年にわたって信仰を守った潜伏キリシタンだ。2018年の世界文化遺産登録の推薦候補に選ばれた「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は、われらと変わらない庶民の驚くべき歴史を伝える

 いかに迫害が厳しくとも、心まで根絶やしにできない。この普遍的な事実を、世界の人々と、まさに困難にある人々と共有したい。