戦争末期、陸軍の特攻基地となった鹿児島県の知覧飛行場近くに、富屋という名の、軍の指定食堂があった。「おかあさん」と呼ばれた主人の鳥濵トメさんと特攻隊員の心の交流は、高倉健さん主演の映画「ホタル」にもなっている

 食堂を再現した資料館「ホタル館」の展示品の中に、士官学校出の秀才で第52振武隊隊長、石井町出身、中原常信大尉のパネルがある。富屋の子どもたちと仲が良かったそうだ

 連れだって川岸を散歩していたときのこと。一群の赤い檜扇(ひおうぎ)の花を見て「古里のと一緒だ」と喜び、持ち帰り、食堂の裏庭に植えた。「俺だと思ってくれ」と言って

 土壌が合わなかったのか翌朝、しおれてしまう。悲しませてはとトメさんが急いで植え替えた夕方、やって来た大尉は元気な花をうれしそうに眺め、一輪手折って胸に挿した。出撃したのは翌日、雨の降る1945年5月25日。22歳だった

 トメさんが戦後語っている。「隊員の人達の多くは、戦争をしてはならない、平和な日本であるように、ということを言っていました。そして、そのことをできるだけ多くの人々に伝えて欲しいとも言っていたのです」(「知覧特別攻撃隊」ジャプラン)

 特攻隊員は10代から20代前半。リオで戦う五輪選手と変わらぬ若者である。「終戦の日」。死んでいった人のことを考える。