東日本大震災から1カ月後、米ワシントンの大聖堂での追悼式で、ある詩が英語で朗読された。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」である。国境を越えて、世界各地で朗読されている

 賢治は、三陸地震大津波が起きた1896年に生まれ、三陸地震が起きた1933年に生涯を閉じた。災害と災害の間にあったその人生で残した言葉の一つに「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」がある

 岩手県花巻市の賢治の生家と実家が近い宗教学者の山折哲雄さんは、賢治の真意を「現実はそうはいかず、誰かが犠牲にならなければいけないことに悩み続けたのだろう」と教えてくれた

 そんな賢治の「雨ニモマケズ」の詩が書き込まれた手帳が一般公開された。黒色の革で覆われたそれには、166ページにわたって、作品の構想や宗教について記されている

 「雨ニモマケズ」は51~60ページにあり、後に字句を修正した痕跡があるという。共同通信編集委員の小山鉄郎さんは、本紙連載で「発表前提の『作品』ではない。賢治の深い内心の祈りだ」(2011年10月3日付)と書いた

 災害やテロが絶えない。「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と分かりつつ、苦悩の中にある私たちを励ますのは、「雨ニモマケズ」だろう。きょうは賢治の生誕120年。