悲しい。愛(かな)しいとも書く。<自分の力ではとても及ばないと感じる切なさをいう>と広辞苑にある

 息子が強姦(ごうかん)致傷容疑で逮捕され、謝罪会見を開いた俳優高畑淳子さんの姿は痛々しかった。被害者はもっとつらい思いをしているはず。不謹慎で、言ってはいけないことと断りつつ、警察の面会で息子にこう伝えたと明かした。「私はどんなことがあってもお母さんだから」。親は、かなしい生き物である

 長男の俳優裕太容疑者は「申し訳ない」と謝り通しだったという。もう22歳だ。親は、子がいくつになるまで責任を負わないといけないのだろう

 この夏、親の悲痛な叫びが何度も聞こえた。相模原市の知的障害者施設では19人が刺殺され、27人が負傷した。埼玉県東松山市では、河川敷で16歳の少年が殺された

 少年は友人に語っていた。「夜遊びを心配する親が煩わしく家出した」。殺人容疑で、中学生3人を含む少年5人が逮捕された。どこで間違ったか。何を間違ったか。被害者の、容疑者の親の、やるせなさを思う

 <ちはやぶる神の持たせる命をば誰(た)がためにかも長く欲(ほ)りせむ>。神がつかさどる命だが、あなたのためにどうか長く。万葉の昔から、そんな人と出会うために人生はある。親の一人として言う。そのとば口で道を外れてくれるな。人様の人生を傷つけてくれるな。