ある日突然、一緒に非業の死をとげなければならない理由が、どこにあろう。一人一人に喜びと悲しみが交錯する人生があり、縁あって山あいの高齢者グループホームに入所したはずだ

 「楽ん楽ん」。人生の終盤を楽しく-。そんな施設を災害が襲った。台風10号が岩手県に上陸し、大雨で岩泉町の小本川が氾濫。浸水した「楽ん楽ん」から9人の遺体が見つかった

 その一報に、1987年10月に本県を襲った台風19号の災害がよみがえった。当時の那賀高木頭分校の教職員住宅が那賀川の増水で床上浸水し、濁流の中を3人の教員が命からがら脱出した。取材した住宅は泥まみれで、教員は「生きているのが不思議なくらい。助けが来たのは避難した後」と憤った

 「楽ん楽ん」の隣には大きな高齢者施設がある。一帯には大量の流木が押し寄せていたが、なぜ、この施設に事前に避難できなかったのか。救えた命があったかもしれない

 氾濫すれば、あらがうすべはない。それは過去の災害で得た尊い教訓だ。天が落ちてくるのを恐れた中国の杞の国の人にも、学ぶべきところはある。たとえ、「杞憂」と言われても、大人ふうに「大丈夫だろう」と高をくくっているよりは、よほどましだ

 大災害は天地をも揺るがしかねない。そう思って手を打つことが大事だ。きょうは「防災の日」。