チェコの首都プラハは中世の面影を色濃く残し、世界文化遺産にも登録された美しい街だ。チェコスロバキア時代の1968年に起きた民主化運動「プラハの春」の舞台でもある

 共産党の権力独占を批判する「二千語宣言」に署名した一人に、東京五輪の女子体操個人総合で金メダルに輝いたチャスラフスカさんがいた

 16年前、現地でガイドから「運動を鎮圧するソ連の戦車が街を占拠した」と聞き、往時に思いをはせた。カレル橋を歩きながら、欄干に立つ幾つもの彫像に、平均台の上を舞う優美なチャスラフスカさんの姿を重ねてもみた

 彼女はメキシコ五輪でも個人総合2連覇を果たす。のびやかな演技には、自由を希求する心がにじみ出ていたのだろうか

 反体制を貫いた彼女は89年の東欧民主化の後、社会的地位を回復した。91年、民主化の象徴としてプラハで催された「ジャパンウイーク」には徳島県からも阿波踊りの親善使節団が参加。実行委員長のチャスラフスカさんも姿を見せ、締め太鼓をたたいて踊りの輪に入った。その彼女が黄泉の国へと旅立った

 2020年には東京五輪を迎える。平均台上に、チャスラフスカさんの演技を思い出す人もいるかもしれない。日本を愛した彼女が2度目の東京五輪を見るのはかなわないが、観客の記憶と共に体操会場にいるだろう。