言葉はもろ刃の剣というけれど、この人の言葉は、人を励ましてやまない。本名はアグネス・ゴンジャ・ボジャジュ。マザー・テレサである

 「貧しい人々の中でも最も貧しい人たちに仕えるように」との神の啓示を受けスラム街で活動したことで知られる。1997年9月に87歳で亡くなったが、今も聖者のように折れかけた心を救う

 今年6月、本紙夕刊連載「新しい力」で、彼女が残した言葉を見つけた。「人は不合理、非論理、利己的です。それでもなお、人を愛しなさい」。東京・聖路加国際病院で乳がん患者の脱毛などの悩みにボランティアとして対応している美容師が、医師から教わったという

 被災地でのボランティア活動を、現地の同業者から営業妨害と抗議され、落ち込んでいたときだった。美容師は、評価されずとも<「あなたの中の最良のものを、世に与え続けなさい」と説く言葉が、そのときの自分に向けて言われているように響いた>と述懐している

 言葉は人を救う。だが、時に人を追い詰め、死にまで追い込んでしまうことがある。いじめ、子どもの自殺を聞くたび、言葉はもろ刃の剣であると思う

 マザー・テレサが、カトリック教会で最高の崇敬対象「聖人」に列せられた。極めて早い認定である。学校や家庭で、折々に、その言葉に触れてはどうだろう。