<徳島ではすさまじい暴風雨。物凄い突風、どしゃぶりの雨、町は浸水し、人命が失われ、尽大な被害が出た>
普段は温暖で暮らしやすい四国は時に、台風銀座と呼ばれる顔を見せる。冒頭の描写は、きのうのことのようだが、実は、晩年を徳島で過ごしたポルトガルの文人モラエスが1914年に、母国の新聞に連載した随想の一節だ
後に日本随想記「徳島の盆踊り」(ことのは文庫)として出版された。題名の由来となった盆踊りの見物に、神戸から船で訪れる道中、モラエスは嵐の前触れに遭遇した。<よく東シナ海から恐るべき台風が発生し、ときには日本の沿岸に到達し、(中略)重大な被害をもたらす>
海軍軍人でもあったモラエスにとって台風は天敵だ。だが、徳島に移住した後は、逃れるすべもなかった
それから100年余り。気象衛星で台風の進路を予測できるようになっても、被害が尽きないことが悲しい。きのうの台風16号は徳島県内に記録的豪雨を降らせ、浸水被害をもたらした。鹿児島、宮崎両県など各地に傷痕を残したが、過去の災害の教訓は生かせただろうか
昔も今も天災に立ち向かう手段は人知である。いつの日か、モラエスの一節を過去の描写にしたい。<徳島ではすさまじい暴風雨。でも、被害は軽微だった>と当然のこととして報じたいものだ。