「ミステリーの女王」アガサ・クリスティが生んだベルギー人の名探偵エルキュール・ポアロが、難解な殺人事件に直面し、こんなせりふを言う。「悪魔はわれわれの間で踊っているのに、見えないだけです」

 横浜市の大口病院で点滴に界面活性剤が混入され、88歳の男性入院患者が殺害された事件で、2人目の被害者が出た。先の男性と同様に寝たきりの状態だったという。この人もまた、殺される理由があったとは到底思えない

 点滴袋のゴム栓に注射針を刺して、界面剤を入れたのではないか、と神奈川県警は見ているようだ。未使用の点滴袋にも細工の跡が見つかっている。無差別大量殺人の可能性すらあった

 病院では、看護師のエプロンが切り裂かれたり、スタッフの飲み物に漂白剤のようなものが入れられたり、とトラブルが続いていたそうだ。横浜市から注意するよう促されていたにもかかわらず、院内で処理するとし、警察にも相談していなかった

 事件との関連は分からない。それでも、きちんと対処していたとしたら、連続殺人にまで発展しただろうか。生命を預かる病院という舞台で、みすみす悪魔に、存分に踊られてしまったのである

 悪意は、それだけでは発現しない。最も悪いのは殺人犯だとしても、つけ込まれる隙を見せた病院の責任も決して軽くないと思う。