私たちの体をつくる細胞は、きれい好きらしい。細胞内に不要なタンパク質があれば分解し、ごみ処理場へ送る。それだけで終わらない。細胞が飢餓状態になったときは栄養として再利用しているそうだ
オートファジー(自食作用)と呼ばれるこの仕組みを解明したのが、ノーベル賞を受ける大隅良典・東京工業大栄誉教授である。現象自体は古くから知られていたものの、生物の生命維持活動の中心となるタンパク質の合成と分解のうち、合成ばかりに注目が集まり、分解の研究は遅れていた
へそ曲がりを自認する大隅さんは言う。「人がやらないことを、じっくり研究したいと思っていた。わくわくが科学の醍醐味(だいごみ)」。言葉にすれば簡単だけれど、人の行かない道を進むのは、容易ではなかっただろう
自食作用の異常が、がんやアルツハイマー病など、多くの病気につながることも分かってきた。大隅さんが切り開いた道は今や、世界中が成果を競う一大研究分野となっている
日本人のノーベル賞受賞は25人目。このところの畳み掛けるような受賞は、これまでの研究レベルの高さを示すものだ
さて、これからも、といくかどうか。短期間で研究成果を求める近年の風潮が、後に続く「へそ曲がり」をつぶしていないか、若者から「わくわく」を奪っていないか。気掛かりではある。