ニューヨーク近辺で10年過ごしたジャズギター奏者から聞いた。「アメリカ人ってね、悪い人はめちゃくちゃ悪い。ところが、いい人はめちゃくちゃいい人なんだ。数からすると悪い人より、いい人が多い。経験上はね」

 それで思い出した。米大リーグで黒人選手と初めて契約した、ドジャースのブランチ・リッキー元会長のことである。1947年当時の米国には、黒人と白人が同じ球団に属するなど考えようもない、あからさまな差別があった。その壁に風穴を開けた

 黒人初の大リーガーとなったジャッキー・ロビンソンさんの自伝によると、こんな前史がある。第1次大戦前、元会長が大学野球のコーチだったころのエピソードだ

 遠征先のホテルで黒人選手の宿泊を拒まれた。抗議の末、簡易ベッドで泊まれることにはなったが、選手は悔しさのあまり、一晩中まんじりともせず、ついには全身を震わせて泣きだしたという。手の皮をはがすように激しくかきむしり「この手です。この黒い手なんです。白くさえあったら・・・」

 その選手の苦悩を忘れることができなかったという元会長の業績は、ほかにはよく知らない。けれど、これだけで十分だろう

 いい人も悪い人も、多種多様な人々が暮らす米国で、まさに白熱する大統領選。3億人の代表に選ばれるのは「いい人」だろうか。