2014年11月、安倍晋三首相は消費税率の10%への引き上げを1年半延期すると表明して、衆院解散に踏み切った

 解散の数日前、豪州ブリスベン。外遊中のホテルの自室で安倍首相は旧知のTBS記者だった山口敬之さんに頼んだ。「山ちゃん、ちょうどいいからさ、麻生さんが今何を考えているかちょっと聞いてきてよ」

 麻生太郎財務相の部屋を訪ねた山口さんは「解散会見で増税先送りを明言すべきではない」とのメッセージを託され、首相に伝えた。記者がメッセンジャーとして政界のプレーヤーを務めたわけだ。山口さんが安倍政権の舞台裏を考察した「総理」(幻冬舎)のシーンだ

 先月、福岡市であったマスコミ倫理懇談会全国協議会の大会。安倍政権とメディアの関係を論じる分科会で山口さんは「プレーヤーになるまいとしたが、完全に超然としていることはできない。全くプレーヤーを全部拒否するのは恐らく無理なんじゃないか」と述べた

 確かに、記者が真正面からの取材だけで十分な情報を得ることは難しい。だからといって、プレーヤーを演じれば、政治家に取り込まれる恐れもある。問題は、記者の職業倫理上、どこまで許されるかだ

 山口さんは自分の体験を本の形にして議論に供した。ちょうちん持ちではなく、「矜持を持った記者」の顔を行間に見る。