では、現在はどうなっているか。憲法2条にある。<皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する>

 典範は4条で規定している。<天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する>。つまり代替わりは「崩じたとき」以外、想定されていない。天皇陛下の生前退位が問題になるのはこのためだ

 「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の議論が始まった。政府は2018年の退位を想定し、次期通常国会での法案提出を目指している。陛下一代の退位に限る特別法を軸に検討を進めているようだ

 可能であっても、国の基本に関わる重要な問題が特別法で決まるのには違和感がある。先例になりはしないか。「時間がかかる」(政府筋)としても、典範の抜本改正で当たるのが筋だ

 と、理屈ではこうなる。だが、高齢を押して象徴としての務めをまっとうされている陛下の姿を見れば、情では別の答えも浮かぶ。憲法を大切にされてきた陛下である。お気持ちの表明もやむにやまれぬことと推察する

 憲法1条は規定する。天皇の地位は<主権の存する日本国民の総意に基く>。陛下は急に年をとられたわけではない。われわれが問題を避けてきたつけが今日の事態を招いた。だとしても、拙速に事を運べば本末転倒となりかねない。