古書に挟んであった謎の数字を読み解くとこうなった。「いつものところにいます」。男は妻の不貞を疑い、売り主を訪ねた。そこには戦争で自宅とともに灰となったはずの自分の蔵書が11冊、暗号文書はさらに18枚あった

 「サキニプールヘ行ッテイマス」。坂口安吾の小説「アンゴウ」の主人公・矢島は、それを翻訳しているうちに涙が止まらなくなる

 謎の数字は、二人のわが子が、空襲で行方不明になる前、父の蔵書を使って交わしていた暗号だった。矢島は思う。<私たちは、いま、天国に遊んでいます。暗号は、現にそう父に話しかけ、そして父をあべこべに慰めるために訪れてきたのだ>

 故人の残した何かが語り掛けてくる。東日本大震災、宮城県石巻市の大川小学校で犠牲になった児童、教職員の遺族は、いくたび経験しただろうか。死んだ子の年を数えない親はいない。悲しみは小説より深い

 大津波の来襲は予見できた、裏山に避難すれば被災しなかったとし、仙台地裁は市と県の責任を認めた。震災といった特別な状況であったにせよ、安全であるべき学校で起きた悲劇である。いつまでも忘れてはなるまい

 「未来の命につながる判決だ」と原告団長は評価した。あの場所で亡くなった84人は、南海トラフ巨大地震が迫る私たちにも、なすべきことを語り掛けている。