世間が「呼吸」しているとするなら、今はとても浅くなってはいまいか。イライラしたり、怒ったりすると、呼吸は浅くなる

 息を吸って吐いての呼吸法はいろいろあるが、教育論や身体論で知られる齋藤孝さんの「呼吸入門」(角川新書)は、こわばった気持ちをほぐしてくれる。例えば、何か言われるたびに「ムカツク」という、その心をも変えられるかもしれない

 齋藤さんによると、「ムカツク」とは<みぞおちが固く胸につかえる感覚です。これは息を浅く吸ってばかりいることで、心身が平静な状態になれないのが原因です>。ならば、どうするか

 提唱しているのは「三・二・十五」だ。鼻から3秒息を吸って、2秒おなかの中にぐっとためて、15秒かけて口から細くゆっくりと吐くという呼吸法である。<数千年の呼吸の知を非常にシンプルな形に凝縮した「型」です>

 生きることは、呼吸を試されている日々ではないかとも思うこのごろだ。いとも簡単に人の命が奪われる。いじめ、虐待、ストーカー、不慮の事故…、思い起こすだけでため息が出る

 先へ先へと、呼吸すら意識することなく一日が過ぎていることも往々にしてある。紙面の紅葉が、こうつぶやいているようだ。暦ははや立冬、身近な自然をしばし愛(め)でてはどうか、と。先を急がなくても、師走はやって来る。