まずは無難な滑り出しと言えよう。

 日本と米国による新たな貿易協定交渉が始まり、農産物関税の引き下げ限度を環太平洋連携協定(TPP)水準とする方針で一致したほか、電子商取引などの「デジタル貿易」についても交渉することを確認した。

 今月下旬に予定される安倍晋三首相とトランプ米大統領との首脳会談に向け、迅速な交渉ぶりを演出した格好だ。

 とはいえ、今後の交渉は楽観視できるものではない。トランプ氏は、中国との貿易協議が難航していることに加え、来年には大統領選を控えていることもあり、さまざまな分野で圧力を強めてくることが予想される。

 日本は米国側のそうした思惑も考慮した上で、自由・公正なルールによる交渉姿勢を貫き、国益にかなう合意につなげることが重要だ。

 トランプ政権が最優先課題と位置付けているのが、対日貿易赤字の削減だ。昨年は676億ドル(約7兆6千億円)に上った。米国側は改めて貿易不均衡を問題視し、農産物輸出の拡大を求めた。

 米国の農産物は、TPP加盟各国に比べて対日輸出で相対的に競争力が低下し、日本に「TPP以上」の自由化を求める声が強まっていた。しかし、交渉が長引けばダメージが増すため、早期妥結に傾いたという。

 TPPの水準を維持できたことで、政府内には安堵感が広がったようだが、合意によって米国の牛肉や豚肉、乳製品などの関税が下がる。厳しい競争にさらされる国内農家への配慮が必要だろう。

 日本側が最も懸念していたのは、日本車に対する輸入数量制限や追加関税、通貨安誘導を封じる「為替条項」の導入だ。

 今回、具体的な言及はなかったが、不安が払拭されたわけではない。米国の対日貿易赤字の8割は自動車分野が占め、米自動車業界は円安・ドル高による輸入増に警戒を強めている。

 トランプ氏も依然、追加関税に強い関心を持っているとされ、注視せざるを得ない。

 今回の貿易交渉について、日本はモノ(物品)の関税に限定した「物品貿易協定(TAG)」と主張。これに対し、米国は金融や通信などのサービスに加え、投資ルールを含めた包括的な自由貿易協定(FTA)との考えだ。

 日米の認識は異なっており、交渉範囲にあいまいさが残った。なし崩し的に米国が要求を強めてくる恐れがあり、危惧される。

 両国は、米大統領選が本格化する今年9月をめどに、交渉の大枠をまとめたい考えのようだ。ただ、交渉の鍵を握っているのは、トランプ氏である。

 6月まで3カ月連続で日米首脳会談が予定されている。安倍首相がトランプ氏の強硬姿勢を封じられるかどうか。交渉の成否はトップ外交にかかっている。