「分断という傷を癒やしていかなければならない」。赤いネクタイのトランプ氏は、落ち着いた口調で勝利を宣言したけれど、米大統領選に嵐を呼び込んだのは、自分自身ではなかったか
移民の流入を防ぐためにメキシコ国境に壁を築く、テロ対策でイスラム教徒の入国を制限する・・・。過激で差別的な言動を繰り返し、分断は広がった。ところが、それも含めて、多くの有権者がトランプ氏に「アメリカの夢」を見たのだから、傷の修復は容易なことではあるまい
大統領選のテーマの一つは「格差」だった。民主党の指名選挙で自称・民主社会主義者のサンダース氏が旋風を起こしたのも、格差への怒りが大きかったからだ。その立ち位置を「左のトランプ氏」と考えれば、米社会が直面する問題が浮き彫りになる
ウォール街やシリコンバレーだけが米国ではない。移民と職を奪い合う工場労働者がいて、汗して働く農民がいて、初めて成り立つ大国である
現状への強烈な不満を既存の政治はくみ取ってくれない。そう感じたとき、短時間の講演で一般の人の何年分もの報酬が得られる元大統領夫人は、選択肢から消えたのだろう
米優先の孤立主義、保護主義。トランプショックは各国を駆け巡っている。戦々恐々とする世界に、政治経験のない次期大統領はどんな言葉を投げ掛けるか。