インディアンと呼ばれた彼らが、欧州からの開拓者と激しい戦いを繰り広げていた19世紀半ば、米北西部の部族指導者シアトルが土地交渉のテーブルについた。ワシントン州の大都市に名を残す人だ

 無理やり土地を買い上げようとした白人に語り掛けた。大統領へ宛てた手紙だったともされる。そもそも演説や手紙といった事実はなかったともいう。流布しているのは、多くの人の手が入った、シアトルも知らない「シアトルの言葉」である

 彼が象徴にすぎないとしても、物語は美しい。空がお金で買えるだろうか? 雨や風を独り占めにできるだろうか? 自然と共に、大地や先祖の記憶と共にあれ、と説く

 なぜなら、全ての存在は網の目のように結ばれているから。<わたしたちは知っている。人はわずかに網のなかの一本の糸、だから、いのちの網に対するどんな行為も、自分自身に対する行為となることを>(「ブラザー イーグル、シスター スカイ」JULA出版局)

 環境問題を心配する大勢の人たちに、シアトルの言葉は語り継がれている。次期米大統領なら、一笑に付すかもしれないが

 地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」など知らない、と物語を書き換える必要はない。温室効果ガス排出大国にふさわしい取り組みを求める各国の声に、耳を傾けてもらいたい。