幾度となく暗殺されそうになった人に、京都のお菓子ですと差し出しても毒味がいるだろう。しかし、彼は、経済懇話会の女性が手渡した土産を開け、一つを指でつまんで口に放り込んだ。そして「おいしいね。私は甘いものに目がないんだ」と一言

 彼とはキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長である。「チェ・ゲバラの遥かな旅」(戸井十月著、集英社文庫)にあるこの場面に、親日家としての一面を見る。「私は、あなたたちを信頼している。だから、何の問題もないんだ」

 14年前のこの逸話一つを抱えて先月、キューバを訪ねた。取材先の小学校の玄関で目にしたのは、8月に卒寿を迎えたフィデル氏の足跡をたどる写真だった。国内最大の病院では、開設を進めたフィデル氏をたたえる声を耳にした

 教育も、医療も「フィデル氏がいたからこそ」の軌跡だったのかもしれない。彼の軌跡は奇跡である。米国という超大国から敵視され、経済封鎖を受けた。国際的にも孤立を強いられながらも、カリブ海に浮かぶ小国を指導してきたのだから

 そんな米国とも昨年7月に国交を回復し、敵対は和解に変わった。その一端を、旧市街など観光地のにぎわいや葉巻の輸出拡大への期待に見た

 祖国が再び世界に船出するのを見届けるかのように、革命の英雄フィデル氏は逝った。