避難指示が解除されて1年3カ月がたつ。東京電力福島第1原発の20キロ圏内にある福島県楢葉町は、全町避難した自治体の中で、住民の帰還に向けた動きが最も進んでいる町だ

 戻ったのは700人ほど。多くは60歳以上で、事故前の人口の1割にも満たない。小中学校が再開され、災害公営住宅も完成する来年は、もっと増えるはず、と松本幸英町長は期待する。一方で、戻ると見込んでいるのは3割程度と明かした

 事故から5年9カ月。避難先で家を建てた、事業所も移転した、子どもも学校になじんだ。今更帰れない、そんな住民は多い。「放射線量は隣のいわき市と比べても誤差の範囲。それなのに」。インフラ整備が進んでも、あらがい難い時の重みがある

 いわき市では、原発避難者の需要で不動産価格が高騰している。めぼしい土地は売り切れ、バブルの波は郊外にも及んでいる。2500万円ほどだったマンションが今や4千万円を超す

 人口の急増で道路は渋滞し、病院の混雑も続いている。原発事故の賠償金も絡み、元々の市民と避難者の間にできた溝は広がるばかりだ

 地元紙・福島民報の記者と街に出た。「賠償金が出ているだろ、と言う県外の人もいると聞くけれど、金じゃないんだ。そんなんじゃない」。深く傷ついた古里を語る言葉は、杯が進むほど熱を帯びた。