福島の詩人、和合亮一さんは東日本大震災の5日後から詩を作り、20日後にガソリンを手に入れ、車を走らせた。福島に何が起きたのか知りたくて

 福島第1原発から3キロにある病院の看護師長は、こう話した。「最初の原発の爆発は、本当の地震と同じぐらい大きな揺れだった。そして何とも言えない、かいだことのない甘い匂いがした」

 息子を亡くした避難者のつぶやきにも接した。「聴きたい曲がある。でもラジオでリクエストできない。泣いちゃう」。曲はアニメ「巨人の星」の主題歌だ。遺品と呼べるのは、それだけだという

 全てをありのまま記録して、未来の子どもたちに手渡したい。<福島は私です/福島は故郷です/福島は人生です/福島はあなたです>。和合さんは、自らの詩「決意」の一節を体現するように、そこで生きる人たちの声に耳を傾け、福島から「言葉の橋」をかけ続けている。10日、橋は徳島にかかった

 和合さんの語りに涙したのに、講演後もまた一泣きさせられた。それは消防団員が投げたロープを握りながら、海に沈んでいったおじいさんの話だ。力尽きて最期に言い残したという。「立派な、いわきをつくってくれ」

 あれから5年9カ月がたつ。まだ語られていない事実、復興という名にかき消された言葉がある。福島の詩人はそれを紡ぎ続ける。