ばかはばかでも「イワンのばか」は、欲なき者への尊称である。愚鈍だが正直に生きるイワンは、悪魔が仕掛けたわなを、自分も気づかないうちに逆手にとって、国王にまで上り詰める。本当のばかは、欲深い2人の兄だった

 イワンの国は、税金も兵役も、通貨すらない。王様自ら野良仕事で生活する。ルールはたった一つ。テーブルにつけるのは手のごつごつした人だけ。そうでない人は、残り物を食べなければならない

 作者トルストイが「ごつごつ」に込めたのは、正直に生きる人への敬慕の念か。19世紀、帝政ロシア。そんな人になかなか日が当たらなかったからこそ、この民話は成立したのだろう。ただ、21世紀になってもこの世界、残念ながら似たようなものだ

 ばかはばかでも当世の、会員制交流サイト(SNS)が暴くのは「何てばかなことを」のばかである。コンビニに陳列してあるおでんを、繰り返し指でつつく動画の主が逮捕された

 さんざんたたかれてきたのに、同種の投稿がやまないのはどうしてか。つまりはこういうことだ。己の愚かさに気づくのは案外難しい

 程度の差はあれ、具体例はネットに山とある。自分だけは別といえるだろうか。本当に自分が見えているか。これでは、と思う画像や文章を目にするたびに、実は当方、いつもぞっとし、不安になる。