遠くなった昭和の、切ない労働の現場から生まれた詩を集めた新書がある。真壁仁編「詩の中にめざめる日本」(岩波新書)。作品の一つ一つに、働く人たちのため息、怒り、悲しみがある

 国鉄職員だった浜口国雄さんがつづった「便所掃除」は<扉をあけます。頭のしんまでくさくなります。まともに見ることが出来ません>で始まる

 詩は、36年前の暮れに公開された山田洋次監督の「男はつらいよ」にも登場した。松村達雄さん演じる定時制高校の教師が「便所掃除」を朗々と読む。切ないけれど、どこかおかしくて、泣いて笑った

 詩を思い出したのは、「昭和南海地震70年の集い」で避難所のトイレを巡る議論があったからだ。仮設トイレは、災害が起きると途端に不衛生で汚くなる

 そうなれば感染症につながる。なるべく行かずに済むように飲まない、食べない人が増える。洋式便座が使えるようにできないか。性犯罪を防ぐためにも、男女別にすべきだ。防犯ブザーが要る。災害弱者の目線に立たなければならない

 詩は<便所を美しくする娘は、美しい子供をうむ、といった母を思い出します。僕は男です。美しい妻に会えるかも知れません>で結ばれている。誰もが掃除をする身になれば分かるだろう。排せつも命に関わる重要な問題だ。備えは快適なトイレから、である。