山本晃さん。今月13日に開かれた神山町議会で、傍聴席から「一般質問」をした94歳、と言えば、思い出してもらえるだろうか

 「議会がある、と町の放送で言うもんだから、てっきり誰でも参加できると思おて」。掘りごたつに足を入れると、照れくさそうに笑った。四国霊場12番札所・焼山寺の近く、ぽっかり取り残されたような山間の一軒家で1人暮らす

 すぐ下の谷を遍路道が通るこの家で生まれ、学校は小学2年まで、家業の炭焼きを手伝った。京都に出て名古屋帯を織っていた10代半ば、親方のピンハネが許せず、他の職人の制止を振り切り「賃上げをやった」。今で言う労働争議である

 戦後、土木作業の出稼ぎに行った東京では労働災害に遭い、現場を仕切る暴力団を向こうに回して闘った。正しいと思うことは言わずにいられない性分だ。少しだけ語気を強め「度胸と根性は誰にも負けん」

 町議会では、自宅周辺の道の修繕を訴えた。軽トラックがやっとの幅とはいえ、お遍路さんも歩く道。想定外の発言を邪険に扱わなかった議会の対応には満足しているが「さてどうなるか」

 身近であるべき町議会。せっかく小回りが利くのに、議員でなければ、と格式ばることはない。この際、誰もが参加できる制度をつくっては。山本さんの「一般質問」を珍事で済ますのは惜しい。