文章作法は、と問われれば、こう答えるという。<初めに言(ことば)ありき/言は神とともにありき/そも、言は神なるがゆえ>。作家浅田次郎さんの「ひとは情熱がなければ生きていけない」(講談社文庫)にある

 <巷間(こうかん)言われるような言魂(ことだま)は信じない。言葉に魂が宿るのではなく、言葉が神そのものなのである>と書いている。人を鼓舞する、道を教える、そんな言葉を紡ぐのは作家だけではあるまい

 20日に米大統領に就任するトランプ氏も、そうあってほしい。もちろん、希望や理想を掲げるだけが大統領の務めではないけれど、人を愚弄(ぐろう)し中傷し続けるのも務めではない。ほえればほえるほど、言葉は人の胸から遠ざかる

 就任式典への出演を拒否するアーティストが相次いでいる。約60人の民主党議員はボイコットする見通しだ。人権団体などは抗議デモを計画している。世論調査は不人気を物語る

 ツイッター上の乾いた言葉が招いたことだが、晴れの舞台を歓迎するムードは乏しい。対立と分断を深めるのも大統領の言葉なら、人と人、国と国をつなぐのも大統領の言葉である

 冒頭の浅田さんは、座右の銘を<初めに言ありき/言は人とともにありき/そも、言は人なるがゆえ>と書き改め、<このさきの碑(いしぶみ)>としている。<神のものなる言葉は、常に人とともにあらねばならない>。