トランプ大統領の就任演説を聞きながら、おやっ、と思った。断っておくが、ほとんど英語は解さない。それでも、すっと耳に入ってくる。格差に怒る人々を投票所に向かわせたのは、この平易な語り口によるところも大きいのだろう

 分かりやすいということは、それだけ主張が単純ということでもある。分かりやすさが、正しさまで保証するわけではない。権力を、既存の政治から国民の手に取り戻す。「米国第一」を唱え、米国、米国と何度も叫んだトランプ氏。その言葉が、どれだけの人の胸に響いたか

 激しい抗議デモも起きた。米社会は分断を抱えながらの4年間になる。国境に壁を築いても、白人貧困層を中心とした「忘れられてきた人々」が望むような国になるかどうか。格差が解消するかどうか

 大富豪と大金融、軍出身者が並ぶ閣僚の顔触れを見ても先行きは不透明だ。期待が失望に変わる日が、早々に来なければいいが

 かつて極端な自国中心主義が戦争への道を開いた。その反省もあり戦後、米国主導で自由貿易体制が形作られてきた。危機をあおりたくはないが、この日をもって、世界の秩序がぎしぎしときしみ始めたことは疑いがない

 嵐が通り過ぎるまで、身を固くして待っているほかないのだろうか。とかく対米追従といわれてきた日本にも、荒波は打ち寄せる。