事が起きたのは数百年前らしい。倭寇が絡んでいるらしい。らしいらしいで、確かなことは何も分からないらしい。像が日本に渡った経緯を調べた韓国文化財庁は結論付けた。「略奪された蓋然性は高いが、断定は困難」

 それでどうして、この判決か。そもそも略奪されたかどうかも定かではないのに。長崎県対馬市の寺から盗まれ、持ち込まれた「観世音菩薩坐像」について、韓国の地裁は、元の所有権を主張する韓国の寺の訴えを認めた

 日本が相手なら、泥棒も正当化される、と裁判所がお墨付きを与えた形だ。伝・朝鮮半島の文化財を持つ日本の社寺は注意した方がいい。「らしい」から、わが国の物、と難癖を付けられるかもしれない。まさか、と笑ってはいられない判決である

 著書「帝国の慰安婦」で、元慰安婦への名誉毀損罪に問われた朴裕河・世宗大教授に無罪判決が言い渡されたばかりだ。司法すら世論におもねる因習も、ようやく変わりつつあるのか、と期待したが

 日韓双方にある極論をいさめ、和解を説いただけで、自国の「強制連行」史観と異なるとして検察が動く。朴教授によると、さすがにおかしいと考える人も少なからずいるそうだ

 韓国が民主化されて30年になる。法が守られ、自由にものが言える。民主主義のルールを、そろそろ大事にしてもらいたい。