甲子園球場、ようやく、日が暮れなずんでまいりました…。この一文のどこが変なのか。暮れなずむは、日が暮れそうでいて、なかなか暮れない状態を指す言葉で進行形は適切ではない

 「NHKことばのハンドブック第2版」(NHK出版)にある。さらに<「暮れなずむ春の日」などと言うように、どちらかというと春のことばである>

 春はセンバツから。今回も県勢の姿がない。となれば判官びいきが顔を出す。21世紀枠で選ばれた岩手の不来方(こずかた)高校。石川啄木の<不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心>を思い出した人もおられよう

 校名は、南部藩の居城である盛岡城の別名不来方城に由来する、と「新版岩手百科事典」(岩手放送)にある。選手は10人。「さわやかイレブン」旋風を巻き起こした1974年春の池田より1人少ない

 昨秋の県大会で準優勝した実力校である。人数ではない、10人の強いつながりを力にした証しだ。少子化で部員がそろわない学校が全国的に増えている。不来方には、新たなファンを呼び起こす、すがすがしい試合を期待したい

 冒頭に話を戻すと<普通に「ようやく暮れかかってまいりました」>などと言えばよい、とある。しかし、「暮れなずむ」のような、ある種の文学的表現を使いたくなる、甲子園にはそんなところがある。